ある男

入院した男。

男が注文し配達された食材が玄関先に置かれていると

近所の友人父から連絡が入った。

仕事終わりに立ち寄り、箱を広げてみると

好きなカツ丼セット、野菜はなく、肉や、酒のつまみにするであろうそんな食材が目立つ。

妻に先立たれ、1人過ごす日々、悲しみの底は抜け、希望を見つけながらも、癒すのは日々の酒だろうか。

そんな事を勝手に思い描いて涙ぐんで、

実家を後にした。

寒くても春はもうすぐ。

 

娘には内緒で娘が所属する演劇部、夏の地区大会へ。
甲子園地方大会の高校演劇的な大会です。

電車で行きましたが、まず思いましたのは帽子や日傘無しで猛暑のなか歩くのは大変危険であると。会場までの残り100mは蜃気楼の向こうにあるようでした。
野菜の無人販売所で目が合った婆さんと暑いね暑いなと言葉を交わした事で意識を取り戻し、命からがらの到着。

さて会場の可児市文化創造センター小ホール。
完璧な小劇場でした。
なぜ、中津川市恵那市にはこんな箱が無いのか。
モヤモヤを抱えつつ中へ入りますと、後方に音響卓。
娘が卓で音の調整している。バレたらこの子に動揺を誘い、本番に影響してしまうぞとパンフレットで顔を隠し席をさがしたが、どこも丸見え。
2階席へ。
開始までずっと娘が作業している姿を見守り、胸が熱くなって泣きそうでした。
心の中では号泣だった。

保育園の時、初めての運動会で緊張して走る直前に泣いていた姿を思い出したり。
時が流れて泣きそうなのは私。無事に終わり、舞台としての感想はあれとしてミスなく役割りを完遂した姿に感激でした。

他校の舞台も彼らの楽しむ姿に胸を打たれたり、満足の高校演劇地方大会でした。

 

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秋でした、秋がやってきた

今頃だったか、秋の優しい季節に記憶をなくした。

出汁から作った鍋焼きうどんを作ってあげたが、鶏肉、油揚げを入れ過ぎて、くどかったのか、麺とかまぼこだけでいいと言って少しだけ食べてからの数日後だった。

せめて記憶の最後に美味しいものを食べたことを残してあげたかった。

北アルプス燕岳山行記

北アルプス 燕岳2763m
前回の八ケ岳連峰赤岳登山ではあまりの岩登りに息子は恐怖し、今後これでは登山自体嫌になるなと思い、危険度の少なく美しい山に行こうと考えを改めた。
燕岳の写真を最初に見た時、絵画のような山肌が実に美しく印象的だった。

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2022年7月16日土曜日、数日前から天候は崩れ、登山は危ぶまれていた。
それから何度も天候を確認、前日の天候、雨雲レーダーでも、豪雨の危険は無く、夜中の23時30分に家を出た。

早速息子が聞いてきた。
何時間かかるの。
A:2時間半くらいか。
頂上まで何時間くらい?
A:5時間から6時間くらいかな。
滑らん?
A:すべらんなー。
間もなく息子は後部座席で毛布をかぶり眠りについた。

安曇野インターを降り、街を抜けて登山口のある中房温泉までの道がまた長い、カーブの連続だが舗装はされており、暗い道をひたすら車を走らせ、現れた数件の温泉宿。
2時駐車場に到着。

早速仮眠を取り、しかし中々寝付けず、寝たか寝ていないかの状態で4時には明るくなりだした。
周囲を見渡すと登山ポストを発見。
登山届を記入し、このポストは別の山のポストであったため、燕岳の登山口になるべく近くの駐車場へと車を移動し、車を停めた。
隣はクーペのメルセデスベンツ
よくもまあこんな山奥に高級な車で乗り付けたもんだなと。
ナンバーから関東の連中だった。
息子を起こし、レッドブルと一緒に朝ごはんを食べ、準備運動。
では行きますかと、移動開始。
メルセデスベンツに一瞥すると窓が曇っている。
関東の連中はまだ寝ているんだろう。

空は灰色で、霧が周りに立ち込めていた。
5時半より入山。
いきなり曲がりくねる急な登りが続く、中々遠くならない温泉宿の赤い屋根。
息子を先頭にゆっくりとした足取りで登ってゆく、他の登山者に抜かれ、抜かれてマイペースな登山だ。
さすがにきついのか無口な息子。
小休止を挟み、最初の休憩ポイント「第一ベンチ」に到着。
水場の看板がある。
ベンチに腰を下ろし息子が口を開いた。
あと何時間かかる。
A:まー4時間以上はかかるでしょう。
えー!。
A:焦っても仕方ないし、一歩一歩だよ。
 でなきゃたどり着けない。

息子はまた黙って歩き出した、途端口を開いた。
とお、う〇こしたい。
A:えー!何パーセントだ?
70%
まだ登りは続いており、登山道の周りは急な斜面ばかりだ、ここではできまい。
A:もう少し我慢だ、別の事を考えろ、考えるしかない。
まだ余裕があるのか息子は歩きつづけ、次の休憩ポイント「第二ベンチ」にコースタイムの30分オーバーで到着。
お腹はまだ余裕があるそうだ。

コンパクトデジタルカメラで息子の表情を取ろうとした時だった。
「フォーカスエラー」覗いたファインダーの真っ黒な画像の中に、そんな文字が出ている。
何度やっても電源を入れ替えようとも、電池を抜き差ししてみても。
「フォーカスエラー」しか出て来ない。
ここでの故障は痛恨の極みだ。
携帯電話もいつまで充電が持つやら、また携帯ではズームの際に画質が極端に悪くなるため、
植物の接写につけても、やはりデジカメは登山に必須である。

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嘆いても仕方ない、頭を切り替えよう、携帯で取れる写真を撮っていこう。
まず登ろう。

その矢先だった、息子が今度は顔を歪ませて言ってきた。
とお、〇んこ。
A:まだ我慢できるか?ポイントが見つかり次第すぐに駆け込むぞ。
そこからしばらく登りようやくなだらかな道に出たため、人目の付かない、なるべく平らなところは無いかと捜し歩く。
ようやく道幅も広い場所があり、そこにザックを下し、我々は霧のかかる樹林の向こうへ消えた。

【ここから汚い話になります】
笹をかきわけ、人目をはばかり、なだらかな斜面に靴のかかとで穴を掘る。
周囲の笹を踏み倒す。
ここの穴にだぞと息子に言うと、ズボンを脱いでしゃがんだが、明らかに、的がずれている。
もっと右だ。
うなる息子、長く吐く息がピンチを乗り切った事を伝える。
強烈な匂いが鼻と喉を突く、咳き込んでしまうレベルだ。
匂いの方向を見てみると穴をも超えて、大人二人分くらいはあろう。
茶色い物体がいくつも横たわっていた。。
ティッシュを渡し、しばらく息をこらえた。
来た方向へ戻り、息子の顔を見ると、何とも清々しい顔でザックを担ごうとしている。
数歩歩いたところで息子が言う。
煙が出とった。
A:どこでだ?
さっきしたうん〇
A:いや、それは煙じゃなくて湯気だろう。
笑いながらまた登りだした。

登山開始から足のももが痛いと言っていたが、それはよくあることで、バスケットボールを習っている事もあり、問題なしとしていた。
しかし「気持ち悪い」と言い出したものだから、顔を見てみると、青いではないか。
おそらく急激な運動でそうなる症状と同じではないか。
昔、家族で行った登山でも私は何度か体調を崩していた、都度私のザックを家族が持って登った記憶がよみがえる。

とりあえず荷物を減らそう。
息子のザックから寝袋、食料を私のザックへ入れ替え歩くわけだが、中々気持ち悪さが引かないと言うため、これはバテる手前かもしれないと感じた。
少し休み、ザックは私が前側へ抱え、ストックを一本息子へ。
しばらく歩くと元気が出てきたのか、会話も好調になってきた。

ザックを30分私が担ぎ、30分担がせそんな事を何度か繰り返し、
ようやく第一の山小屋「合戦小屋」へ到着。

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イカが名物の小屋との事。

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イカの看板が目に留まる。
早速2つ注文し塩を掛けた。
イカを前に食べたのがいつなのか覚えていないくらい久しぶりだ。

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イカを美味しいと思った記憶もなかった。
しかしこのスイカがとんでもなく甘くおいしかった。
汗をかき、疲れた体に染み渡る甘さと水分。
ここまで約5時間半かけて急な山道を登ってきた事もあるだろう。
息子も感激していた。

さてそろそろ用意をと、スイカのトレイを返しに行き、登山道の方に立てかけられた看板が目が留まった。
「この先の燕山荘テント場はCOVID-19感染拡大防止の為、完全予約制となります」
去年の双六小屋の悪夢が蘇る。
最近はコロナも重症化と感染者も減り、今回この確認をしていなかった。
2週間前の木曽駒山荘は予約はいらなかった。
まあ山脈も違うが、まさかだった。
燕山荘までのコースタイムは1時間半。
今から聞いてみるかと、合戦小屋の方に電話番号を聞き、携帯の電波も問題なかった。
今からの予約は可能か確認した所、雨予報だったため、予約も少なく大丈夫との事。
晴れてたらどうなっていた事か。

 

心配事もこれでなくなり、休憩も充分に取れた事で息子の体調は完全に回復したとの事。
この 後の道が、ここまでの道とは異なり、登りも緩く、息子も歩きやすいと言うほどの道だった。

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森林限界が近く、木々も徐々に低くなり、ペースは今までと変わって順調に歩いて行ける。
地図上では「北アルプス三大急登」と書かれた場所も気づけば通り越していた程。
上機嫌の息子は黒豹や白豹はたまたま産まれてくるんだと、親が黒かったり白かったりではなく、普通の豹なんだとか、カエンダケは触ってもヤバイとか。
大昔のトンボは今よりずっと大きかったとかそんな話を聞かせてくれた。
楽しい道のりだった。

空は曇っていたが視界が広くなり、そろそろ目指す燕山荘だと思えた時、一人の下山者が私たちに言った。
「着いたら合褒美が待ってますよ」
そうなんですね、お疲れ様です。
そう返し、考えてみた、燕山荘で暖かい飲み物でもふるまってくれるのか、この曇り空と霧では絶景は拝めないだろうし、何だろう。

ただ、私は思う。

この言葉は伝えて来た方にとっては好意だろう、しかしありがた迷惑な言葉なのである。
なぜなら、予期せぬ感動に出会ったとき、それが一生の思い出となったりするわけで、ここに含みを持たせられ、その感動に出会った際、この事かと。
もはやその時点で感動は半減なわけである。

映画のCMでよくある「衝撃のラスト30分を見逃すな」的な一言。
構えて受け取る感動と、予期せぬ感動、ここには大きな違いがあると思うわけだ。

そっとしといて欲しかったな。
そう思いながら歩くことわずか、燕山荘の建物が見えて来た。
声をあげて喜ぶ息子。
テント場を過ぎ、目の前の斜面を登れば、この山荘から燕岳の稜線に出る。

出た。

目の前に広がる光景は雲が振り払われ、残雪の残る北アルプス
左に槍ヶ岳とその北鎌尾根、深い谷、正面に鷲羽岳水晶岳であった。
右に燕岳の美しい山肌。
絶景だった。
この事か。巻き戻しておっさんの一言無しにしてほしかった。
でもとにかく絶景、見事だ、槍ヶ岳の向こうに遠くも大きく美しい山。
笠ヶ岳

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12時過ぎ、まずは目指す燕山荘到着、テント泊の料金を払い、テント場へ。
さてどこに張ろうか。
確かにテントはまばらで、選ぶ余地もある。
山ガールがテントの横で座っている。
その横辺りが地面もなだらかでいいじゃないかと。
早速テントを張り、昼食の為、山荘のテラスへ。
生ビールとコーラを注文し息子と乾杯。

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お疲れ、よく頑張ってこれたなと。

持ってきた行動食を食べながら、景色を満喫していた。
雲がものすごい速さで動いていく、見えていた山の景色も、どんどん変わってゆく。
ポツポツと遂に降り出してきてしまった。
残りのビールを飲み干し、水場で水を汲み、テントに滑り込む。

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一気に土砂降りに変わった。いつもなら夕方近くには止み、虹や夕暮れを見れた今までの時とは異なり、この日は降り続けた。

汗で湿った服を着替え、ダウンを着て少し昼寝をして、夕方六時、雨は止まない。
寝るしかないと息子に言い寝袋へ入った。
寝れるわけもなく、雨が止むのを待った。
20時頃だったか、もう寝れないと頭をかきむしる息子。
コーラ飲んでお菓子を食べるかと、食べながら聞いてきた。
明日頂上行く?もう帰りたいと言い出した。
A:天候次第だな、雨なら止めて、下山だ、雨でなかったら行くぞと。
その後息子はスースーと寝息を立て始めた。

疲れているのに眠れない。

いつか親父は言っていた、どんな状況下でも寝れる体を作れと。
眠れない場合は目を閉じてじっとしていろと。

意識がなくなったのは1時を回ったころだったか。
雨はまだ降り続いていた。

目が開き、時計を見ると4時、そろそろ起きてご飯を食べる時間だ。
雨は止んでいた。
ご飯を食べた後、テントを撤収、荷物を山荘に預け、山頂へ。
ここから約30分、イルカに見える岩、穴が二つ空いた眼鏡岩、高山植物を見ながらゆっくりと。

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何億年も前の地殻変動でこの地は隆起し、雨や風で浸食され、今の形になったとドキュメンタリーでみたが、歩く地面の砂は確かに岩が削れたものである事が伺える。

頂上の三角点にタッチし、記念撮影。

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薄い雲が北アルプスの山々を覆ったり、表したり。

青空が出たのは一瞬、雨が来る前に下山を開始。
私が先頭となり、ゆっくりした足取りでゆっくりと歩く。
イカを食べた合戦小屋を過ぎた頃、後方から走りながらカップルがやって来た。
トレランか。
綺麗な顔立ちをした男子、体のラインが強調されたウエアを着たこれまた美しい女子。
どうぞどうぞと先に行っていただく。
この直後だった、息子が先頭に立ち、小走りに下りだした。
カップルに感化されたか、ザックの重量もあり私もついていくのがやっとのペース。
登りの登山者に道を譲りあってるトレランカップルに追い付く、また離され、また追いつく、登りの登山者が多い時間帯でもあり、道を譲り合う頻度が高い。

息子に疲れた様子はなく、今度は休憩中のトレランカップルに追い付く。
息子の状態も好調、ここでこいつらを巻くぞと、競争意識が芽生えている。
ここはパスして行くんだと息子に言い、この後も小休止を何度かしたが、トレランカップルの姿はなかった。
完全にちぎったなと。

最後の休憩場所「第一ベンチ」で休憩。
水も少なくなり、気になった水場へ。
岩場からチョロチョロと水が出ている、顔を洗う、この瞬間が登山の
喜びの一つ。
実に冷たく、水も美味い。
手拭いを洗い、もう一度顔を拭く、この冷たさと、吹く風が顔を撫で、また最高に気持ちいい。
あとホントにもう少し。
二人で地図を確認し、出発する頃、トレランカップルがやって来た。
彼らに競争意識があるわけもなく、規則正しくここでも休憩していく慎重なスタイルだ。

小学生みたいに急いで、競っているのは俺だけなんだろうと、ちっぽけな自分を感じつつ、ようやく温泉宿の赤い屋根が見てえきた。
温泉だ、着いたら温泉に浸かろうと息子と話ながら無事下山完了。

露天風呂とソフトクリーム、今回もまた素晴らしいしめくくりだった。

色んな事が起きたが、楽しく過ごせたこと。
絶景にも出会え、思い出深い二日間だった。

 

息子はどう感じたか。
これは今ではなく、今後の事。
いつか何かの形で、役に立ったり、糧となることを願いたいものだ。

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